喘息とは
喘息は、空気の通り道である気管支に慢性的な炎症が生じる疾患です。これにより、せき込み、たん、呼吸困難、ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音(喘鳴)、胸部圧迫感などの不快な症状が現れます。これらの症状は突発的に発生し、特に深夜から明け方にかけて、または季節の移り変わり時期に悪化する傾向があります。
呼吸器系の構造として、空気は鼻から口、喉を通り、気管支へと流れていきます。気管支の壁は、内部の粘膜層、その下の組織、そして筋肉層(平滑筋)で構成されています。喘息を持つ人の気管支は、症状が出ていない時期でも炎症状態にあり、通常なら反応しないような軽微な刺激にも過剰に反応してしまいます。炎症が進行すると、粘膜が腫れてたんや咳を引き起こし、気管支の筋肉が収縮して気道が狭まります。
当院で行う喘息の診断と治療
—喘息の診断
喘息診断のプロセスでは、詳細な病歴聴取と身体検査を実施し、必要に応じて各種検査を行います。医師との対話では、どのような状況で症状が現れるか、夜間や早朝に悪化するかなどを確認します。アレルギー疾患の既往や家族の病歴も重要な情報源です。診察中には、聴診器により呼吸音を注意深く観察し、喘鳴の有無を確認します。
呼吸機能評価では、スパイロメーターという装置を使用します。この検査では、大きく息を吸い込んだ後、強く息を吐き出した際の最初の1秒間に排出できる空気量(1秒量)を測定します。気道狭窄があると、この数値が低下します。
また、呼気中の一酸化窒素濃度を分析する検査も実施します。この検査結果は気道の炎症程度を示す指標となり、数値の上昇は気道炎症の存在を意味します。
—薬物療法
喘息治療の中心は適切な薬物療法です。喘息患者の気道では常に炎症プロセスが進行しており、自覚症状がなくても徐々に悪化していることがあります。見える症状は問題の全体像の一部分にすぎず、発作時のみの対応では根本的な改善につながりません。
治療では主に以下の薬剤を使用します。
継続使用する維持療法薬(コントローラー)
喘息状態の長期的な安定を目指す薬剤です。吸入ステロイド剤を中心に、気道の炎症反応を抑制し、発作の予防につなげます。日々の定期的な使用が効果的です。
吸入ステロイド剤は強力な抗炎症作用を持ち、維持療法の基本となります。全身への影響はわずかですが、声の変化や口腔内のカビ感染など局所的な副作用が生じることがあります。
長時間効果持続型の気管支拡張剤は、神経系に働きかけて気道を広げる薬です。持続性のあるタイプは維持療法として活用され、必ず吸入ステロイド剤と組み合わせて使用します。
急性症状緩和のための発作治療薬(リリーバー)
症状の急激な悪化時に即効性をもたらす薬剤です。速やかに気道を広げる作用を持つ吸入薬が一般的です。
速効型の気管支拡張剤は効果発現が迅速で、発作対応に最適です。重度の発作では、内服ステロイド剤や点滴治療が必要になることもあります。
—喘息発作への対応
喘息発作には適切な対応が不可欠です。軽度から中程度の発作では、即効性のある気管支拡張剤を使用し、安静を保ちましょう。ただし、以下のような警告サインがある場合は、すぐに医療機関を受診してください。
薬剤使用後も症状の改善が見られない
会話が困難なほどの息苦しさがある
口唇や爪が青みを帯びている
当院では個別の「発作時対応プラン」を作成し、適切な対処法を指導しています。
—環境調整と生活アドバイス
喘息発作は感染症、身体活動、アレルゲン物質、タバコ煙、気象条件の変化など様々な要因によって引き起こされます。これらの誘因を可能な限り避けることが発作予防の鍵となります。
アレルゲンや刺激物を特定し、接触を減らすための実用的なアドバイスを提供します。
室内のダスト管理:効果的な清掃方法や寝具のケア
動物アレルギー対策
カビ対策:適切な換気と湿度コントロール
間接喫煙の防止
さらに、適切な運動プログラムや感染症予防のための生活習慣についても指導します。
—症状の程度に応じた段階的治療
喘息の程度は症状の頻度や強さ、肺機能検査結果に基づいて「軽微な間欠型」「軽度持続型」「中等度持続型」「重度持続型」の4段階で評価します。週に1回以上日常活動や睡眠が障害される場合、夜間症状がある場合は「中等度持続型」または「重度持続型」と判断されます。
それぞれの段階に対応して、医学会のガイドラインに沿った治療ステップ1〜4があります。どのステップでも吸入ステロイド剤が治療の基盤となり、段階的に他の薬剤を組み合わせて治療強度を調整します。定期的に状態を再評価し、必要に応じて治療方針を見直します。
喘息のセルフケア
喘息のコントロールには日常的な自己管理が欠かせません。当院では次の点を重視しています。
—ピークフローモニタリング
自宅で簡便に肺機能を測定できるツールです。数値の変動をチェックすることで発作の前兆を早期に把握できます。
—症状記録の継続
症状の変化や薬の使用状況、ピークフロー値などの記録は治療効果向上に役立ちます。
—計画的な診察
症状がなくても定期的な受診が重要です。治療効果を評価し、状態に応じて計画を最適化します。
併発しやすい疾患
喘息患者は上気道の疾患を併発しやすい傾向があります。呼吸器系は鼻から気管支まで連続しており、喘息は下気道、鼻の疾患は上気道という、ひとつながりの経路上で発症するため、併発率が高くなります。
また、喘息患者はアレルギー素因を持つことが多く、各種アレルギー疾患の併発リスクも高まります。主な併発症には以下のものがあります。
—アレルギー性鼻炎
ダニ、室内塵、花粉などのアレルゲンへの反応として、くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった症状が現れます。花粉症もこの一種です。
—慢性副鼻腔炎
鼻周囲の空洞(副鼻腔)での持続的な炎症により、鼻づまり、分泌物過多、嗅覚障害、顔面の不快感などが生じます。
—好酸球性副鼻腔炎
再発しやすく治療抵抗性の副鼻腔炎で、鼻内にポリープ形成がみられることもあります。好酸球という特定の白血球が関与しています。
当院ではこれらの併発症にも総合的に対応します。
主な検査内容
—肺機能評価
スパイロメトリー(肺容量や呼気速度の測定)
気道拡張反応テスト(気管支拡張薬の効果確認)
気道過敏性評価(気道の反応閾値測定)
—アレルギー検査
特異的IgE抗体測定(血液検査)
皮膚反応テスト
パッチテスト法
—炎症指標検査
呼気中一酸化窒素濃度測定:気道炎症の程度を判定します。値の上昇は炎症状態を示唆します。
血中好酸球数測定:数値上昇は気道炎症の存在を意味します。
—画像診断
胸部X線撮影:肺の状態確認
胸部CT検査(必要時):肺の詳細評価
こんな方はご相談ください
- 2週間以上続く咳がある方
- 夜間や早朝に咳や息苦しさを感じる方
- 運動後に咳や息切れが出る方
- 風邪症状が長期化しやすい方
- アレルギー性鼻炎や皮膚炎、食物アレルギーをお持ちの方
- ご家族に喘息の方がいる方
- 職場で化学物質などに触れる機会がある方
当院では早期の適切な診断と個別化された治療により、症状の効果的なコントロールと生活の質向上を目指しています。お悩みの方はどうぞお気軽にご相談ください。一人ひとりの状況に合わせたきめ細かなサポートを提供いたします。